「原っぱのリーダー」(眉村卓)

かつては心温まるSF作品がたくさんあった

「原っぱのリーダー」(眉村卓)
(「それはまだヒミツ」)新潮文庫

小学校三年生の「ぼく」は、
あまりぱっとしない原田が、
上級生テツオらとともに、
近所の原っぱで
遊んでいるのを見つける。
立ち入り禁止であることを
「ぼく」がとがめるが、
原田はまったく意に介さない。
やがて原田は変わっていく…。

目立たない性格だった原田は、
少しずつ積極的になり、
堂々としてきて、
周囲から一目置かれるような
存在になってきたのです。

「ぼく」は多分、
優等生なのでしょう。
「立ち入り禁止」の札の
示されている原っぱで遊ぶなど
考えられないのですから。
そして勉学に励み、
「ぼく」は進学校へと進みます。

「テツオが教えてくれるまで、
 ぼくはあんな面白い遊びが
 たくさんあると知らなかった。」

テツオに感化され、
立ち入り禁止の原っぱで
遊んでいた原田は、
有名でもなく進学校でもない
高校に通うのですが、
そこでサッカーと美術で
才能を開花させます。

「ぼく」は考えます。
彼はテツオによって何かの能力を
開発されたのではないかと。
なぜなら「ぼく」は、
よその町の空き地で
子どもたちをリードしている
テツオを再び目撃したから。
8年前と変わらない姿のテツオを。

短いながらもとてもいい話です。
ルールをしっかり守り、
勉強を一生懸命がんばり、
進学校に進んだ「ぼく」の生き方は
正当なものです。
でも人生それだけではないのです。
決まりを破っても
果敢に冒険する子ども。
それを叱りながらも
温かく許容する大人。
そうした環境の中で子どもたちは
のびのびと成長することが
できるのです。
「原っぱ」は、
その格好の舞台であり、
「テツオ」は
その化身のような存在なのでしょう。

本作品発表は1992年。
20年以上経っているのですが、
全く色褪せていません。
かつてはこのような心温まる
少年少女向けSF作品が
たくさんあったのです。

「新潮文庫日本文学100年の名作」で、
すっかりアンソロジーの魅力に
はまってしまいました。
アンソロジーとは、
あるテーマに沿って
多様な作家の作品を集めた
短編集のことです。
単なる「寄せ集め」ではありません。
共通テーマのもとに
他の作家の作品と
並べられることにより、
その文学的価値が
より鮮明に感じられるのです。

児童文学のアンソロジーである
本書に収められた
眉村卓の知られざる逸品、
いかがですか。

※中学から高校にかけて、眉村卓作品を 
 20冊以上揃えていました。
 何度かの引っ越しの折に、
 すべて処分してしまいましたが…、
 今から思うと何とももったいない。
 現在、再蒐集中です。

(2019.2.16)

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※眉村作品はいかがですか。

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